2024.10.01 導入実例

高い信頼感で活動する日本赤十字社医療センターの感染制御チーム

日本赤十字社医療センター 感染制御チーム
安藤 常浩様 院内感染対策室 室長 感染症科(ICD)/ 菅原 えりさ様 感染対策室看護師長 感染管理認定看護師 / 今井 一仁様 院内感染対策室 検査部 臨床検査技師  (以上全て取材当時)

取材日記

東京広尾。閑静な高級住宅街の中心部に、地域医療の中枢を担う日本赤十字社医療センターがある。708床の急性期病院であり、大学病院レベルの各科 を持ち、周産期医療も整備されている。職員約1,700名を抱える大きな組織で、的確な指導により感染制御を実践しているのが、安藤常浩先生を中心とする 日赤医療センターのICTである。本稿では、ICDの安藤常浩医師、ICNの菅原えりさ看護師、今井一仁臨床検査技師らにICTの活動について話を伺った。

図1 日赤医療センターの院内感染対策組織 (取材当時)

1.院内感染対策室の設立経緯

菅原 母体となる感染症委員会というのはこの病院の常設委員会として以前からありましたが、1998年の診療報酬の改訂 (入院初日5点)で、「MRSA分科会」ができたのが現在のICTの前身です。2001年にMRSA分科会は「ICT」と名称を変更し、私が感染管理認定 看護師(認定ICN)という資格を取得したのも丁度2001年のことでした。

安藤 その後、医療安全というのが世の中で言われ始め、平成17年に正式に院長直轄の組織として「院内感染対策室」が立 ちあがり、ICTの活動が始まりました。現在は8名の人員が配置されていますが、当初は全員兼任という立場でした。もともと私は呼吸器内科でしたが、当院 に以前結核病棟があり、感染症と言うと呼吸器の疾患も多く含まれ、感染対策に入って行きやすい環境にありました。その後、感染症科が標榜され、今は、 HIVをはじめとする感染症診療と感染対策を行っています。

2.院内感染対策室の活動

菅原 ICTは、医師が2名(ICD)、看護師が2名(ICN)、薬剤師が2名、検査技師が1名、事務方が1名の合計8名で構成され、専従は私(認定ICN)が担っています。

安藤 院内感染防止対策委員会(ICC)は以前からある病院の委員会で、病院の院長、看護部長などの幹部、診療科や事務 方の代表が出席する組織です。ICCは感染症に関わる方針を審議して、承認する機関です。実働はICTであり、ICTで方針を作り、ICCでそれを確認し ます。本来決定権はICCにあります(図1)。

菅原 当院のICTの特徴の一つは、目的ごとにラウンドが4種類ある点です。「①ICTラウンド」は感染症を先生 (ICD)が中心となって、抗菌薬の適正使用といった観点でのカンファレンスとラウンドを行います。ICNが主体的にやっているのが、「②環境ラウンド」 です。耐性菌が検出された患者さん、もしくは感染対策が必要な患者さんが発生した場合に、対応策を確認するラウンドが「③耐性菌ラウンド」です。そして清 掃を管轄する事務担当者も加わり、清掃業者の清掃が契約通りに行われているかどうかをチェックする「④清掃ラウンド」があります。私は全てのラウンドに参 加していますが、他のメンバーは兼務しているため、少ない時間で効果的に行うために考案した当院オリジナルのラウンドです。

安藤 感染対策で一番大切なのはコミュニケーションです。そういう意味では菅原さんを中心に、ICTでは良好なコミュニ ケーションがとれています。検査部、薬剤師、病棟のリンクナース、師長らと良好な関係が築けています。とき、医師と医師の間の関係が問題になることがある と言われていますが、かなり良好なコミュニケーションがとれていると思います。その結果として、いつも、患者さんの診療治療を優先してディスカッションで きていると感じています。

3.ICONS21を導入して

安藤 ICONS21のシステム導入により、検査部の今井さんが一番楽になったのではないでしょうか。ラウンドの情報を 得るのが容易になったと思います。電子カルテのシステムと一緒に導入したのですが、以前は電子カルテがなかったので、ラウンドのための情報を作るのに数日 かけてデータを集計していました。今は1時間半ほどです。それだけ労力が減り、その分を他の仕事に回せるようになりました。

菅原 ICTラウンドの際には、感染管理支援システム(ICONS21)が有用です。注目している抗菌薬使用者リストを感染症支援システムでリストアップし、ICTメンバーで、一人一人の患者さんの状態を電子カルテとICONS21で確認していきます。

サーベイランス

菅原 サーベイランスシステムは今回新たに導入して、当院の電子カルテシステムとの兼ね合いで調整中ですが、今後順次よくなっ ていくだろうと思っています。VAP、UTI、BSIのデバイスサーベイランス、そしてSSIサーベイランスにはICONS21の感染対策支援システムが 役立っています。また、厚労省サーベイランス(JANIS)へのデータ送付もこのサーベイランスシステムで簡単に作成し送ることができるようになりまし た。

感染チャート

菅原 先程述べたICTラウンドの際に役立つのが「感染チャート(感染症診療に必要なバイタル情報、使用薬剤、検査データが同 一画面で見られるICONS21のシステムのひとつ)」です(図2)。電子カルテからではすぐには見つけ出せない情報も、この画面では一目瞭然で、ラウン ドだけでなく、ICT活動のあらゆる場面で役立っています。

図2 感染チャート

安藤 「感染チャート」は経過表として簡単な会議などではそのままプリントアウトして、画面のハードコピーに線を足したり、コメントを書き込むぐらいで使えてしまうので、とても楽です。

ワクチンプログラム

菅原 医療従事者は、インフルエンザワクチンに加え、HBV、風疹、ムンプス、おたふく風邪、水痘などのワクチン接種が推奨さ れています。当院では2006年から職員全員に対しワクチン接種を開始していますが、約1,700名の職員の抗体検査の管理やワクチン接種者の抽出は容易 ではありません。ICONS21の「職員感染対策システム」は、このワクチンプログラムにも対応しており、必要なデータの検索から抽出まで簡単にできるよ うになりました。今では作業の大部分をICTの事務に任せています。

4.今後の感染制御システムに望むもの

今井 ICONS21が最近普及してきているタブレットPCで使えるようになれば、ラウンド時にそれを携帯して、現場で 直近の微生物検出状況等が即座に確認でき、非常に良いと思います。これまでその都度、細菌検査室に問い合わせて確認していたことが、手元で解決できるよう になるかもしれません。病室の端末でもICONS21は使用できますが、細菌検査システムにはアクセスできません。今はそういった非公式の情報は電話で問 い合わせるしかなく、その非公式情報の中にも重要な情報が埋もれているかもしれないと思っています。これが実現できれば、システムの有効利用の幅が広がる と考えられます。

安藤 院内感染対策は、医療安全と同じで、常に注意、努力し続けなければなりません。また、その病院の特色によって、さ まざまな課題があると思います。システムでマップを出して、患者配置をプロットしたいというところもあるでしょうし、要らないという病院もあるでしょう。 病院によって求める機能、対策が異なることもあります。

編集後記

今井臨床検査技師が今後に望むものとして、真っ先に「ICONS21のタブレット化」を指摘された。ケーディーアイコンズ社によると、正に開発を進めてお り、2013年春に発売とのことで、非常にタイムリーな意見だった。セキュリティーの強固さを考慮して、WIN8のバージョンで準備中とのことなの で、ぜひ手にとってみてはいかがだろうか。(編集部)

コラム

充実したICT活動

安藤 常浩 院内感染対策室 室長 感染症科 (ICD) 日赤の特色の一つは、看護師のレベルの高さがあります。看護のみならず、感染対策も指揮系統がしっかりしているため、手指衛生を始め種々の感染対策の徹 底や、何かあったらすぐ連絡という体制が整っています。恐らくこの体制は他の病院より優れていると思っています。医師たちもICD、ICNの指示にほとん ど抵抗なく従ってくれます。これもICN(菅原さん)の尽力によるところが大きいと思っています。また、診療報酬の改訂により今年度から始まったいわゆる 感染対策加算での他の病院との連携においても、スムーズな運営できていると考えています。医療加算、地域加算も組み込み、年4回地域の関係者を集めて感染 症科の勉強会を行っています。勉強会では、参加している病院間でレベル感も違い、同じ土台で話ができない面もあるので、試行錯誤しています。それぞれの病 院の特色やレベルの違いもありますが、まずはお互いの院内感染の状況を理解し合うところから始め、問題点についての協議を始めています。これら日頃の活動 が充実して行える理由として、ICONS21を導入し必要な情報が速やかに得られることに加え、ICTメンバーがバランス良く働き、言いたいことを言える チームワークの良さにあると思います。

第1期の感染管理認定看護師を取得して

菅原 えりさ 感染対策室看護師長 感染管理認定看護師 私は比較的若いときから、自分は看護師として、何か一つ得意分野を持ちたいと考えていました。最初は病院の中の一つの役割として始めた感染対策ですが、 マネージメントの面白さ、自分の行動によって病院を少しでも変えられる達成感に思いが一致し、感染管理を専門的に学びたいと思い始めました。その矢先、病 院のサポートもあり、2000年に日本看護協会で始まった感染管理認定看護師コースを受講することができました。そして、認定ICNを取得し、早10年。 「自分の専門」を意識した仕事に邁進できたことはこの上ない喜びであると同時に、私を支えてくれたのはICTの他にありません。当院のICTのチーム力は リーダーである安藤先生の人柄や考え方が大きく影響をしています。安藤先生は感染症医の立場だけでなく、ICDとして感染制御に係るさまざまな仕事(手指 衛生、隔離のこと、PPEのこと等々)にもしっかり関与し、私をサポートしてくれます。また、今井技師の細菌検査に関する経験と知識の豊富さにはいつも脱 帽で、ICTにとって欠かすことができません。もちろん、薬剤師も若い力を発揮してくれています。このように、大きな支えがあるからこそ、十分な仕事がで き、結果、職員からの信頼も得られているのではないでしょうか。これからもこのチーム力で進んで行きたいと思っています。

ICONS21で菌の顔の違いを察知する

今井 一仁 院内感染対策室 検査部 臨床検査技師 細菌検査室は院内で最初に情報が得られるので、それをいち早く感染制御に向けて情報提供できるように日夜努力しています。検査を行って結果を出すのは当 たり前のことですが、そのデータを使ってICONS21により集計作業やアンチバイオグラム作成、複雑な集計を短時間で行うことができるようになり、とて も助かっています。2012年のシステム改修により以前と比べより速くより複雑なことができるようになり、劇的に業務処理が変わりました。以前あまり患者 さんが見えてこなかったのですが、このシステムを使うことによりさまざまな関連情報が得られ、常に菌の裏には患者さんがいるというつもりで頑張れます。高 度医療が発達するに連れ、菌の顔が違ってきているように思います。毎日ICONS21を使って、アウトブレイクの察知が早期に、的確に、そして顔の違う菌 たちの性質までも把握できるようになった我々臨床検査技師は、病院内でより重要な役割を担っていると思います。

(年代等全て取材当時のまま)

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