2024.10.01 導入実例

チーム医療としてのICT活動のアプローチ

虎の門病院 臨床感染症部 医師 (取材当時)
荒岡 秀樹 先生

今回取材した虎の門病院は、「医学への精進と貢献、病者への献身と奉仕を旨とし、その時代時代になしうる最良の医療を提供すること」を理念とし、常に最新 の機器やシステムを取り入れている。本稿では、一事例として感染制御システムについて導入をリードしてきた米山彰子医師と現場を担当する荒岡秀樹医師にお 話を伺った。

1.当院の感染症の特徴

――虎の門病院の紹介と、感染制御の体制をお聞かせください。

(荒岡)「虎の門病院は、病床数890床を有し、先端医療を整えた本院と、慢性疾患治療センターに位置づけられている300床の分院に分かれています。 当院の特徴として、造血細胞移植の症例数は日本でトップを誇り、入院患者さんの7~8人に1人は、血液内科の患者さんです。血液内科の患者さんの中には、免疫低下の際に生じる日和見感染症(真菌感染症なども含む)が問題となる患者さんも多くおられます。当院の感染症対策は、感染対策委員会(ICC)が全体を統括し、さまざまな分野の専門家である医師・看護師・薬剤師・検査技師や事務職などを含む感染対策チーム(ICT)を中心に行っています」

2.週2回のICTラウンド

――虎の門病院では、どのようにICT活動に取り組んでいるのでしょうか。

(荒岡)「当院の重要な感染対策活動として、ICTメンバーが月曜日と水曜日の週2回、病院内をラウンドする活動を行っています。
月曜日は、病院全体の感染対策を目的に、多剤耐性菌(MRSAや多剤耐性のグラム陰性桿菌など)の保菌患者さんに、接触感染予防策の検証などを行い、 我々インフェクション・コントロール・ドクター(ICD)やインフェクション・コントロール・ナース(ICN)の他にも看護師長や事務員の方々と協力して 取り組んでいます。
一方水曜日は、耐性菌を誘導しやすいバンコマイシンやカルバベネム系抗菌薬をはじめとした広域スペクトラムの抗菌薬の適正使用のチェックを行っていま す。このICT活動は薬剤師も中心メンバーとなっており、通常の薬剤処方では、病棟の薬剤師と医師が相談して、投与量の設計等を行いますが、この活動で は、ICTが広域抗菌薬の使用状況を確認し、薬剤の適切な使用を指導しています。
またこの活動を通じて、他の病院の感染症専門医の先生方と意見交換をする機会があり、その結果を病院のICT活動にフィードバックしています」

3.包括的な多剤耐性菌対策

――虎の門病院のICT活動の課題は何でしょうか。

(荒岡)「一番の問題点として、感染症に関わるマンパワーの不足だと思います。当院は大学病院に匹敵する病床の規模があります。
先程申しましたが、当院では特殊な治療が必要な感染症の患者さんが多く、多剤耐性菌対策を行う場合、診察を行う感染症専門医や感染管理のアドバイスを行 うICNや、薬剤の適正使用を行う薬剤師の方々、そして正確な診断には、検査技師の方々など多職種の方からの協力が必須です(図1)。
そこで、より多くの方々から感染症に対して興味を持っていただくために、ICT活動の他に、研修医に感染症に対する教育や、職員への啓発活動を行っています。
つまり、感染症対策には多分野・多方面のアプローチや、多くの方々の協力をいただける環境作りが課題だと感じています」

4.感染制御システムの導入と活用

――米山先生が感染制御システムの推進を行ってきたとお聞きしておりますが、数ある感染制御システムがある中、ICONS21を選ばれた理由は何でしょうか。

(米山)「私はもともと感染制御を担当する上で、優れた感染対策システムを導入したいと考えていました。病院情報システムの入替時期にあわせて2006年1月にICONS21を導入できました。
もちろん、他社の同様のシステムを比較検討しましたが、機能が豊富で、病院の要望に合わせて機能をカスタマイズできるICONS21に決めました。
導入した結果、各種の統計や必要な資料が使いやすい形で取り出せて、感染症発生状況がリアルタイムで把握できることや、病院内の職員の間で情報共有が可能となったことなどが感染制御活動に非常に有益だと思います」

図1 多剤耐性菌対策に必要な要素(環境感染症学会発表)

――荒岡先生が実感されているICONS21の長所とは何でしょうか。

(荒岡)「私が当院に着任した当時からICONS21が導入されており、導入前の過去データも確認できる点や、病院の感染症対策業務を効率化する機能が揃っている点が長所だと思います。
例えば、ICONS21の細菌検査情報システム(MIS)や感染管理システムを用いることで、院内に感染対策が必要な患者さんがどの病棟にどの程度おら れるかを即時にマップや一覧表示することができます(図2)。その他にも診療時に必要な細菌の感受性率データ(ローカルファクター)の更新を容易にするこ とができたり、耐性菌の保菌や検出履歴などの詳細な情報のラウンド資料を得ることも可能です」

5.感染症データのデータマイニング解析

――荒岡先生が感染症の研究などにデータマイニングを活用されているそうですが、どのように活用されているのでしょうか。

(荒岡)「ICONS21には、ICONS Minerというデータマイニングシステムがあり、感染症に対する要因を解析して、感染症リスクを把握 し、効果的な感染症対策を立てることや、私が現在行っている緑膿菌、S.maltophiliaなどの疫学研究にも役立っています。

図2 ICONS21による感染症の患者さんのマップと図の表示

ICONS Minerはデータマイニングの他に、多変量解析や統計検定の機能も揃えていて、基本的な操作を理解してしまえば、解析したいデータ をいろんな角度から解析できます。データを触っているうちに、注目すべき要因などが分かってきますので、解析サポートツールとして、とても優れていると思 います」

6.サーベイランスの充実をめざして

――今後病院全体として、ICONS21はどのような活用をされていくのでしょうか。

(米山)「ICONS21は感染制御のシステムとして、多くの機能を備えていると思いますが、まだ十分に活かしきれていない部分もあります。
今後当院において、より一層サーベランスを充実させたいと考えており、ICONS21の感染対策支援機能を用いれば、少ない人数でもBSI、SSI、 VAP、UTIなどのターゲットサーベランスを実施してくことが可能です。機能を使い込んだ上で、より優れたものを求めていきたいと考えています」

7.ICT活動に参加を

――最後に、感染症対策に対するコメントをお願いします。

(荒岡)「感染症対策には、感染症の診療と感染制御のふたつの要素をバランスよく取り入れていくことが重要と考えています。
感染症診療の充実を図ることは重要であり、近年臨床感染症学が注目されてきています。一方、感染制御は多職種をまきこんだチーム医療としての側面が大きく、感染対策の視野を広げるため、より多くの方に感染症に対して興味を持ってもらい、特に若い方々にもICT活動にもっと参加していただきたいと思います」(年代等全て取材当時のまま)

荒岡 秀樹 医師 (取材当時)

平成15年 和歌山県立医科大学卒
平成19年~現職

日本感染症学会専門医
日本化学療法学会抗菌化学療法指導医
インフェクションコントロール・ドクター
日本内科学会認定医

研究分野:多剤耐性緑膿菌をはじめとした耐性菌感染症の臨床
:造血幹細胞移植の感染症

虎の門病院臨床感染症部メンバー (取材当時)

■木村 宗芳 医師 臨床感染症部
■荒岡 秀樹 医師 臨床感染症部
■米山 彰子 医師 臨床感染症部 部長
■高橋 並子 看護師 感染対策担当
管理看護師長

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